LSEアカデミアニュース No.57 「パリ協定」遵守:再エネと原子力の攻防 (10) ~放射線の定量化:[Bq]・[Sv]と健康被害~
1.増加の一途:世界のエネルギー消費と経済成長 本号は世界に目を転じて温暖化防止の施策を考えてみます。 まず、世界における一次エネルギー消費量( )の推移を下図に示します。2018年は13.9Gtoe(toe: 石油換算値)、京都議定書の基準年1990年の1.7倍に達します。このエネルギーは経済成長のために投入され、2018年の実質GDP( )は84.6T$[T(tera):*1012、$: 米㌦]、1990年の2.2倍に達しており、同じ利得を得るに要するエネルギーは▲30%省エネになっています。一方、温暖化の要因である化石燃料由来のCO2排出量( )は33.7Gton-CO2、1990年の1.6倍で、一次エネルギー増加率よりやや低く3Eトリレンマ【経済(Economy)成長にはエネルギー(Energy)の投入が不可欠だが、環境(Environment)を悪化させる、つまり3Eの同時解決は困難】を解決するディカップリング【エネルギー投入増加率よりもGDP増加率とCO2排出減少率が共に高い現象】が実現している。注目すべきトピックスです。 一方、世界の総発電量は2018年26.6PWh[P(peta): *1015]で1990年の2.2倍:と急速に電化が進んでいます。2040年のエネルギー消費は現在より+30%増加し、その40%を電力が占め、再エネがその40%に達するとの予測がなされています。今後も世界経済成長のため電力を含むエネルギー需要は増加の一途を辿りますので、CO2排出量増加率を低下させる省エネを含む低炭素・脱炭素化ビジネスを進展させ、パリ協定「2.0℃約束」を果たさねばなりません。
1.エネルギー白書 2019 6 月に閣議決定した「エネル ギー白書 2019」のトッピクスは「パリ協定を踏まえた地球 温暖化対策・エネルギー政策」です。パリ協定が 2015 年に 締結されて3 年経過しましたが、我が国のみならず主要国の 温暖化対策・エネルギー政策が目標通りの実績を上げている のか、我が国は主要国と比較してどのように評価されるの か、を本白書で記述されているので紹介してみます。 2.CO2 排出削減への施策 下図は我が国が世界に公言 した「約束草案:CO2 排出量を2030 年までに2013 年比で ▲26%削減する」ための中期目標値へのアプローチプロセス (破線)と直近3 年の実績(プロット)を示します。再エネ比率と非化石比率はそれぞれ全電源に対する(再エ ネ)と(再エネ+原子力)の比率です。図からわかりますよ うに非化石比率(赤)、再エネ比率(橙)、CO2 削減率(緑)、 最終エネルギー/GDP(青)の全指標いずれもが目標ライ ン水準で推移しており、堅実な実績を残しています。我が国 の目標値は前号で解説しましたように、各部門での最大実現 可能シナリオの積み上げですので、「物質主義に侵されない 倫理的ドイツ国民」の目標値に比しやや甘さがあるものの堅 実な施策が功を奏しているようです。 3.主要国の中期目標達成状況 そのド
1.ドイツの位置・気候・気質 南はアルプス山脈、中央はヨーロッパ平原、北は北海・バルト海にいたる北緯(47度~55度)、北海道より北の樺太北部からカムチャッカ半島南部に位置し、冷涼で曇りがち、比較的温和な海洋性の気候です。面積は日本の94%、人口は66%、GDPは世界4位の技術立国です。日本は島国ですが、独国は9か国と接し送電網があり、電力の相互融通が容易な地理的条件を備えています。 気質は現実的な頭脳と理想主義的な精神を兼ね備え、「物質主義に侵されない倫理的国民」を自負するほどです。 2.政策決定は【トップダウン+気候変動対応】 環境政策目標【CO2削減:2020年△40%、2030年△50%、2050年△(80~95)%】【再エネ比:2050年発電部門80%】【エネルギー消費量半減(2008年比)】はドイツらしい【トップダウン+気候変動対応】で、やや自尊心が先走った楽観的シナリオのように思われます。これに対し、我が国のエネルギー政策は【ボトムアップ+(3E+S)】で、原子力も再エネもすべて動員したバランス重視のエネルギーミックスでCO2削減目標2030年△26%を部門別に積み上げて設定しています。
1.主力電源の条件 3月に改訂した「エネルギー基本計画」には「再エネを最大限導入する」を「再エネの主力電源化を目指す」と明示しました。「パリ協定2.0℃約束」を果たすためには再エネを2030年には一次エネルギー国内供給の13%、電力部門の23%に高めると世界に宣言しました。電源23%の中味は水力9%、太陽光7%、バイオマス4%、風力2%、地熱1%。水力は従来の大規模水力がほとんどで、中小水力とバイオマスは小規模でほぼ開発済みで、地域との共生を図っています。したがって、太陽光(PV)と風力(WT)が主力電源化の焦点になります。主力電源化への条件は (1) コスト競争力の強化 前号で既述しましたが、PVとWTの発電コストは自然環境に強く依存するため地域変動幅が大きく、設備利用率の差が顕著です。年々漸減傾向にあるものの総じて大規模火力発電より高いのです。しかも、下図のように海外より未だ2.5倍ほど高い現状です。FIT(固定買取制度)→入札→自由競争(事業用で10円/kWh、住宅用で20円/kWhが目安)過程での自立化が急務です。
1.パリ協定「2.0℃約束」遵守へのシナリオ パリ協定の約束は【今世紀末の気温上昇を産業革命以前より2.0℃、できれば1.5℃以下に抑制する】ことです。これを果たすため我が国は【CO2排出量を2030年度までに2013年度比で△26%、2050年度に△80%(できる限り0%)削減】する約束草案を国連に提出しています。2013年度のCO2排出量は~12億㌧ですので、2030年には~9億㌧、2050年には~2.5億㌧以下に削減しなければなりません。この削減目標は第4次エネルギー基本計画で【どんなエネルギー源で「CO2排出ゼロ+経済成長」が成立するか !】という国是の下、産業・業務・家庭・運輸・エネルギー転換の各部門で技術とコストの課題や国内外の環境施策動向を踏まえて具体的に積み上げた実現可能な数値なのです。